国会で5月21日に「改正少年法」が成立し、18歳と19歳の少年について、これまでより厳しい扱いになることが決まりました。

 今回の法改正では、これまで20歳未満の犯罪は原則匿名でしたが、改正後は18歳と19歳の少年について、起訴された時点で大人と同じように実名報道が可能になります。

 また、これまで少年院に送られていた強盗や放火などの罪を犯した18歳と19歳の少年について、原則、検察に送致できるようになり、有罪となれば刑務所で刑罰を受けることになります。

「更生」か「刑罰」か…。過去に強盗事件を起こし更生した元少年と、娘を少年事件で奪われた遺族の思いを取材しました。

■17歳で強盗致傷事件起こし少年院へ…更生し格闘家として活躍する男性

 愛知県一宮市出身の山本聖悟さん(25)。現在は、総合格闘技のイベント「RIZIN」に出場するなど、格闘家として活躍していますが、18歳の頃、少年院で1年を過ごしました。

 中学生で地元の暴走族に入り、16歳で総長に。17歳の時に、路上で男性を殴り、現金を奪った強盗致傷事件などを起こし逮捕され、約1年間、少年院に。

山本さん:
「今思うと、恐ろしいことしていたなって思います。麻痺していたんです。刑務所行っていたら、多分(今)格闘技できてないので…。もう一回犯罪していたかもしれないです。もう開き直っちゃって」

 山本さんは「自分は少年法があったから救われた人間のひとり」と言います。

 20歳未満で罪を犯した少年たちが集団生活を送る、少年院。刑務所とは違い、少年院の目的はあくまで“更生”。ここで生活をした少年たちに前科はつかず、1日の大半を勉強や職業訓練など、更生に向けた教育を受けて過ごします。

■強盗・放火で有罪の18~19歳の少年は少年院でなく刑務所へ…厳罰化される少年法

 この仕組みを定める法律が大きく変わることになりました。5月21日、参議院本会議で可決・成立した改正少年法では2022年4月から、成人年齢が18歳に引き下げられることに合わせ、罪を犯した少年の扱いも変わることになりました。

 現在の少年法では、逮捕された少年は家庭裁判所で保護処分が決まると、少年院などに送られます。検察に送られ、大人と同じ刑事裁判を受けるのは原則、殺人や傷害致死など“人の命を奪った罪“だけです。

 改正少年法では、18歳と19歳を「特定少年」と定め、強盗や放火などの罪についても検察に送致できるようになり、裁判で有罪となれば、教育を重視する少年院ではなく、刑務所で刑罰を受けることになります。

■教育を受ける機会無くなれば立ち直れなくなる…法改正に「反対」唱えるNPO法人の男性

 一定の厳罰化が進んだ改正少年法。この法改正を危惧する声もあがっています。

 罪を犯した少年たちを支援するNPO法人「再非行防止サポートセンター愛知」の代表・高坂朝人さん。100人以上の“非行少年”と接した経験から、今回の法改正には「反対」だといいます。

高坂さん:
「教育を受ける機会が無くなってしまうことが、立ち直りにくくなることにも繋がると思います」


「少年院での教育は、その少年が10年後、20年後、30年後まで、2度と罪を犯さないために必要な教育」と主張する高坂さん。“更生”を重視する少年院での教育が受けられないケースが生まれることで、少年たちの更生の機会が失われると訴えます。

 実際、「犯罪白書(令和2年度版)」によると、成人の受刑者の37.5%が再び罪を犯して刑務所に入るのに対し、少年院を出た人が再び刑務所などに入る割合は22.7%で、15%ほど低くなっています。

高坂さん:
「罪を犯した少年たちは、社会のこと、色んな人のことを信じられないってなっているかもしれないけど、少年法という法律は、その少年たちの事も全部ひっくるめて、信頼し続けている法律だと思うんですよね」

「信頼し続けてくれる人たちが増えれば、少年たちは社会の中できちんと生きていくことができる」と高坂さんは考えます。

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■実名が出ていたら表舞台に出られなかった…少年法の「匿名報道」に救われた男性

 今回の法改正では、もう1つ大きく変わることがあります。これまで20歳未満の犯罪は原則匿名でしたが、改正後は特定少年について起訴された時点で大人と同じように実名報道が可能になります。

格闘家の山本さん:
「(名前が)出ていたら、当時、銀行に就職したお姉ちゃんも就職できなかったし、家族にも迷惑かかったし…」

 少年院を出て更生し格闘家としての道を歩む山本さんは、「匿名報道だったからこそ、格闘家として表舞台に出て頑張ることができる。少年法があったから変わることができた」と話します。少年法の「匿名報道」に救われた1人です。

■「人殺しているのに名前出ないのっておかしい」…少年事件で娘の命奪われた男性の訴え

 何年も少年法に「矛盾」を抱き続けている人がいます。

寺輪悟さん:
「少年法は異常だと思います。正直言えば遅いくらいで。やっと引き下げかと」

 三重県四日市市の寺輪悟さんは、少年事件で娘の命を奪われました。2013年8月、三重県朝日町。中学3年生だった娘の博美さん(当時15)は花火大会に行った帰りに行方不明になり、数日後、変わり果てた姿で発見されました。

 その後、逮捕されたのは高校を卒業したばかりの当時18歳の少年。強制わいせつ致死の罪で起訴され、有罪判決を受けましたが、実名報道はされませんでした。

寺輪さん:
「私の博美の場合は、全部すべてさらけ出されると。矛盾して、相手方は一切出ない。加害者は今後の将来のことを考えて、実名報道も顔写真も身辺が分かるような情報は一切出さないという法律に守られていますから。じゃあ、なんで人殺しているのに、名前出ないのって。おかしいもんだって」


■なぜ年齢で区切るのか…罪の重さや社会的ショックで区切ることを訴える遺族

 少年法そのものが、遺族にとって大きな「壁」になっていると訴えます。

寺輪さん:
「すごい壁ですよ、少年法は。年齢で区切る理由は無いと思いますよ。20歳過ぎても仕事しないでフラフラしている方もいますし、やったことが大きい小さいか、社会的ショックが大きいとか、そういうのに対して裁判が進めて行くべきで、歳も関係なくやっていくのが私は普通だと思いますけどね」


 年齢で区切ることに矛盾を感じています。

寺輪さん:
「はっきり言わせてもらいますけど、なんで18、19に特化するんだと。自分の家族が犯罪被害者になった時、そんなこと言えるのか」


 事件から8年。家族の時間は止まったまま…。「少年」の存在が今問われています。

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