飼っていたペットの世話ができなくなり捨ててしまう「飼育放棄」が今、後を絶たず、愛知県動物愛護センターに寄せられた飼い主から犬の引き取りを依頼する相談は、1年間で1000件以上にのぼります。

 愛知県に飼い主によって捨てられた犬たちの命を救う団体があります。団体の代表を務める49歳の女性は「終生家族として暮らせないのなら飼わないでほしい」と訴えます。

■8年間で200匹以上の犬を保護…不幸な犬たちの里親を探す団体

 奈良県の廃業した犬の繁殖業者の内部。壊れた檻に入れられた小型犬や、ひとつのケージに押し込められた3匹の犬などがそのまま放置されていました。業者やペットを捨てる飼い主によって、小さな命が失われている現実があります。

 愛知県武豊町のドッグレスキュー「HUG」。繁殖業者や飼い主に捨てられるなどした犬を保護しています。

 代表の塚本恵さん(49)はボランティアのスタッフと協力しながら、8年間で200匹以上の犬を保護してきました。

 全身の毛が抜けたポメラニアン。推定5歳で半年前に捨てられていたところを保護され、イヴと名付けられました。保護した時、首から下が脱毛しており、繁殖のために酷使されていたのではないかと塚本さんは推測します。

 塚本さんたちはこうした不幸な犬たちの里親を探し、新たな家族の元に送り出していますが、大きなハードルがあるといいます。

塚本さん:
「シニアだったりとかハンデがあったりすると、里親さん見つからない可能性が高いです。かなり厳しい状態」


■「誰かが助けないとその命終わっちゃう」…捨てられる犬を保護し続ける

 5月6日。塚本さんとスタッフは、チワワが捨てられているという情報が入った常滑市の廃棄物の最終処分場を訪れました。このチワワが最後に目撃されたのは4月30日だといいます。

塚本さん:
「だいぶ経っているんです。昨日も雨だし、心配で…。何とか生きていてほしい」


 情報が入ってからすぐに大型連休になったため処分場には入れず、この日、市の立ち合いのもとチワワの捜索に向かいます。首輪をしていたことから、飼い犬だったとみられるチワワ。最後の目撃からすでに6日が経っていて、廃棄物の処分場という環境で無事でいるのか、不安がよぎります。

 草をかき分けて入念に探し続けて40分…。探していたチワワを発見しましたが、人を怖がっているのか逃げてしまいます。それでも何とか捕獲。飢餓状態で痩せていましたが、無事、保護できました。

塚本さん:
「捨てられる子がいる。見てしまうと助けないとって…。誰かが助けてあげないと、この命終わっちゃうので」

 幸い、このチワワは飼われていた家から逃げ出したことがわかり、飼い主の元へ返されました。

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■「簡単に犬を捨ててしまう人間が後を絶たない」・・・増え続ける飼育放棄

 今回は遺棄されたものではありませんでしたが、飼育を放棄するケースは後を絶たず、愛知県動物愛護センターに寄せられた飼い主から犬の引き取りを依頼する相談は、2019年1年間で1167件と1000件以上にのぼります。塚本さんはセンターへの持ち込みは今後確実に増えると予想します。

塚本さん:
「簡単に命が買えてしまうことが…簡単に捨ててしまう人間が後を絶たないですよね。不幸な子が減らない。飼い主によって、その子が天国にも地獄にもなる」

■「誰にでも渡してしまうとまた不幸になってしまう」…2週間のトライアルを経て初めて里親に

 繁殖犬として酷使され捨てられたイヴ。家族に迎えたいという里親希望者が現れました。

イヴの里親を希望する家族の母親:
「名古屋の保護犬の事情を知って、悲しい思いをしたワンちゃんを一匹でも少なくすることに協力できたらなと思って」

 名古屋市に住むこの家族は、人懐っこいイヴとあっという間に仲良くなりましたが、すぐに譲り渡すことはしません。まずはスタッフが里親希望者の家を訪れ、飼育環境をチェック。2週間、実際に犬を飼ってもらい、里親としてしっかり面倒がみられるかを確認します。

塚本さん:
「誰にでも渡してしまうと、せっかく助けた命がまた不幸になってしまう。100パーセント幸せにするためには、その段階を踏まないと譲渡ができない」

 イヴは2週間のトライアルを経て無事、この女性の家族の一員となりました。

■施設で最期を迎える犬も…終生家族として暮らせないなら飼わないでほしい

 こうして新たな家族に出会える犬がいる一方、施設で最期を迎える犬もいます。去年11月に保護したコーギーの柊斗(しゅうと)です。

 引き取った時には全身傷だらけで、飼い主に虐待を受けていたとみられ、人間をひどく恐れるようになっていました。

塚本さん:
「手が怖いんですよね。手が頭の上とか自分の前にいきなり来たりすると、その手をガブッと(してしまう)」

 今年3月に貧血と診断され、次第に病状は悪化。病気を抱えているため、里親を探してあげることもできず、ここまで輸血で命をつないできました。しかし、輸血は今回で3度目。その後、獣医師からこれ以上の治療は難しいと判断されました。最後の輸血から5日後…。柊斗は塚本さんたちに見守られながら旅立ちました。

塚本さん:
「命の重さって一緒だなって思って。一人家族が増えるんですから、人間の赤ちゃんが増えるのと一緒」


「終生家族の一員として一緒に暮らしてほしい。それができないのであれば、飼わないでほしい…」塚本さんの願いです。

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