2020年6月、愛知県安城市で中学生が大型トラックにはねられて死亡しました。息子を失った男性は、交通事故での犠牲者を少しでも減らすことができれば、息子が生きた証になると鬼瓦を製作しました。

 厄除けのほか、大切な人を守るという意味を持つ鬼瓦は、亡くなった中学生の母校に設置され子供達を見守っています。

■事故から1年…自転車で歩道を走っていた中学生が大型トラックにはねられ死亡

 2020年6月、愛知県安城市で当時中学1年生の加藤大翔くんは、大型トラックにはねられて死亡しました。

父親の加藤二郎さん:
「病院に急いで行ったら、『落ち着いて聞いてください』って。すぐそばまで行って必死で『戻ってこい』って…。なんでこんなことに…」

 中学校での目標は「友達をいっぱい作る」こと。新型コロナの休校がようやく明けたばかり。新しい自転車に、ぶかぶかの制服姿でまたがり、学校へ向かう途中でした。

 道路から、ガソリンスタンドへ入ろうとした大型トラック。自転車で歩道を走っていた大翔くんは、直前でブレーキをかけて止まりましたが、大型トラックはそのまま左折。大翔くんを巻き込み、20メートルほど引きずりました。

 警察は運転していた石舘満也被告(48)を、過失運転致傷で現行犯逮捕。前方不注意が原因とみられています。

■「大きく羽ばたく男に育って欲しい」…叶うことはない息子の名前へ込めた思い

 中学校入学を記念して撮った家族写真が、最後の一枚になりました。事故から1年、加藤さんが毎日決まって思い出すことがあります。

加藤さん:
「前日の晩『お父さん疲れているから肩もんでくれ』と。(大翔くんが)『じゃあ抱きしめてあげるわ』って、冗談で…。ここに頬をあてて、彼の体の大きさとか、腕の細さとか、そういうのを忘れないように」

 将来の夢はと聞くと、「大人になって好きなモノを大人買いすること」とおどけた大翔くん。大翔くんの部屋には事故後、加藤さんが購入した大好きだったアニメ「鬼滅の刃」のグッズが飾られています。

 名前に込めた「大きく羽ばたく男に育って欲しい」という思いも、かなうことはありません。

加藤さん:
「みんなの心の中に生きてもらって、1つでも事故を減らす、無くすことができれば、あの子の生きた証し…。意味持たしてやりたいって。それで1件でも事故が無くなれば、親として大翔のことを誇りに思うと、『大翔でかした』って、褒めてやれるって…」

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■1件でも事故が無くなるように…息子が生きた証しとして鬼瓦を製作

 悲しい出来事を減らすことが、息子が生きた証しになる。

 想いを形にしたのが、愛知県高浜市にある「鬼滅の刃」の限定グッズを手掛けた「山本鬼瓦工業」です。鬼瓦には、厄除け、魔除け、家族など大切な人を守るという願いがこめられます。

製作にあたり、鬼師の山本英輔さん(46)は一つだけ条件をつけました。

鬼師の山本さん:
「(鬼瓦は)100年も何年も残っていきますので、ぜひ家族の思いを鬼瓦にこめたらどうですかって」

<魁けて 蒼天翔ける 雅の子 清く正しく 心に生きる>

 加藤さんがずっと一緒という思いを込め、家族全員の名前から一文字ずつをとって考えた詩です。大翔くんの仲間の思いも刻まれました。

<大翔君はいつまでも西中の一員!>

山本さん:
「うちも同じ中学生の子供がいますので…。ずっと見守ってくれると思いますね、この鬼瓦がね」

■「ただ1つ大翔を返してください」…残された遺族の思い

 事故から11か月後、名古屋地裁岡崎支部で始まった大翔くんの命を奪った男の裁判。検察側は「安全確認を怠り、前途有望な少年の命を奪った」として禁固3年を求刑。対する弁護側は、執行猶予付きの判決を求めました。

 6月10日の3回目の裁判。石舘被告から、こんな発言がありました。

石舘被告:
「ちょっとしたことが、大きなことになるのを実感している」


 なぜ止まっていた息子に気付かなかったのか。息子の命は「ちょっとしたこと」で奪われたのか。交通事故では、いつも被害者側が置き去りにされます。

加藤さん:
「僕らは、この地獄のような感情、憎しみを持ちながら…。正直もうね、社会的制裁どうでもいいです。ただ1つ、大翔を返してください」


 6月29日、裁判所は石舘被告に「禁錮3年 執行猶予5年」を言い渡しました。

■中学校へ届けられた思い…母校に設置され子供達を見守る鬼瓦

 一周忌を目前に控え、中学校へ届けられた思い。登校する仲間を見つめています。加藤さんがあの詩を考えた日、大翔くんの夢を見たと言います。

加藤さん:
「その日の朝ですね、夢見まして…。そのとき初めて大翔の夢を見て…。ずっと眠っていた大翔が起きてきて『父さんありがとう、大好きだよ』って」


 大翔くんの生きた証が残ること、それだけが唯一の救いになると言い聞かせ、日々を送っています。

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