行列ができる名古屋の人気ラーメン店。店の一番のこだわりは「親から受け継いだ“宝物”のメンマ」です。人気店の一日に密着しました。

■看板メニューは「特上メンマ」…名古屋の行列ができるラーメン店

 名古屋市天白区植田。国道153号線沿いの決して人通りが多いとはいえない場所に、行列の絶えないラーメン店。その名は、「一陽軒(いちようけん)」。

 11席あるカウンターは、いつも満席で、次から次へと人が入ります。

 看板メニューは「特上メンマ」。

 歯ごたえのいいメンマが山盛りで、その下には濃厚かつスッキリとした豚骨スープと自家製のモチモチとした中太麺が隠されています。

男性客:
「豚骨なんですけど今まであまり食べたことない感じのタイプなので…メンマもザクザクで、麺がすごいモチモチです」

別の男性客:
「スープがスッキリと飲める、コクもありながら臭みがない。あっさりしてるのでいいなと」

 もちろん女性にも人気です。

女性客:
「何ともいえない…濃厚なんですけど、クドくなくておいしいです、すごいホント」

■一日100食限定…麺は“27センチ”豚骨スープ“水と骨だけ”で作る

 店を切り盛りするのは、主の田中義之さんと、妻の清美さん、夫婦で営むラーメン店です。

 味のこだわりを聞くと…?

一陽軒店主・田中義之さん:
「自分がこだわった、本当においしいと思うものをお客さんに提供したいという思いです」

 行列の絶えないラーメン店。この店では、毎朝午前8時からからその日に使う麺の仕込みを始めます。

 強いコシと、モチモチとした食感にこだわり、数種類の小麦粉をブレンドして作ります。それ以外にも…。

一陽軒店主・田中義之さん:
「吸ってちょうど食べやすい、長すぎず短すぎず、27センチにこだわっています。私のなかで女性でも男性でも食べやすい長さが27センチかなと思いまして」

 長さにこれほどもこだわって、1日に100食分を仕込むのが限度です。

 自慢のスープは豚骨。一度に45キロもの豚骨を使います。

一陽軒店主・田中義之さん:
「うちはもう、水と骨のみで作ってますので。あとは骨から出る、甘みだとか良いところだけを上品に取り出しました。毎日でも食べられる飽きのこない豚骨ラーメンを作ろうと思いまして。なので余分な脂だとかは一切捨てて、胃にもたれないようなスープを目指して作っています」

 余分な脂などを使わない分、濃厚なのに、後味があっさりとしていて上品。これが女性にも人気の理由です。

 合わせるタレは、北海道産のホタテの貝柱、エビ、魚醤で作った、いわゆる魚介系。豚骨スープと合わせることで、深みのある味わいになります。

 しっかりと湯切りした自家製の中太麺をスープに合わせると、ここで、店一番のこだわりが登場。

■出来上がるまでに約1週間…一番のこだわりは手間をかけた『極太メンマ』

一陽軒店主・田中義之さん:
「こちらのメンマになります、当店は極太のメンマを使用していますので、原料から仕入れて、ここまで作るのに1週間かかるので、手間ヒマがすごくかかるので、他ではなかなか食べられないかなと思います」

 最高級の乾燥メンマを使い、鍋で4時間炊いたら、2日間、水に浸けて戻して切り分けます。

 その後、さらに2日間、水に浸けてようやく食べやすい柔らかさに。

 確かに、相当手間が掛かっています。実はこのメンマ…。

一陽軒店主・田中義之さん:
「私の両親が『好陽軒』というラーメン店で同じメンマを使っていて、そのメンマを受け継いでお客さんに提供しようと思ってやっています」

■こだわりのメンマは「宝物」…両親が営む“名古屋の名店”から受け継いだ逸品

 田中さんの実家は、名古屋市昭和区にある こちらも人気のラーメン店「好陽軒(こうようけん)」。名古屋のラーメン通の間では、よく知られている名店です。

 看板メニューは、その名もズバリ「メンマ」。

 スープは、鶏ガラをベースにしたあっさり味のものですが、メンマは息子さんの店と同じものです。それについて、ご両親に話を聞くと…?

好陽軒店主・父親の茂さん:
「最初はどうするんだと聞いたら、とりあえず一般的な、ほかで仕入れたもので挑戦してみたいということだったので、だったらそれで勉強していけと。そうしたら2年くらいしてから『壁にぶち当たったから親父のようなやつをなんとかやってみたい』ということで。うちのやつも試したんですよ、そのまま持って行って食べてみたけど、やっぱりスープに負けちゃうって、メンマが」

 実は、仕入れ先や仕込み方は教えてもらいましたが、味付けは、豚骨スープに合うように試行錯誤を重ね、変えていました。

 出来上がりまでにおよそ1週間近くと、手間は掛かりますが、その分“味よし”、“歯ごたえよし”。両親から受け継いだ大事なメンマです。

一陽軒店主・田中義之さん:
「これは父親から譲り受けた宝ですので、誰にも教えることもできない宝物です」

■いつも行列の「一陽軒」…この日のランチも完売で30分前に閉店

 午前11時。店が開くと、次々とお客さんがやってきます。店の前は、いつも行列です。

男性客:
「すごいとろみがあるスープで、絡んでおいしいです」

女性客:
「麺もツルツルでおいしくて、こってり重たくなくて」

 地元の常連さんはもちろん、その味に惹かれて、わざわざ遠方から訪れる人もいます。

男性客:
「(岐阜県)大垣からです、ここのメンマを食べるためにね」

 やはりメンマは人気のようで、この日も、たっぷりと盛られた一杯を注文するお客さんがいました。

男性客:
「特上を頼んだらすごく一杯で、おいしいです、メンマも」

女性客:
「たくさん入っていて、メンマだけでもおいしいです」

 店一番のこだわりは、次々と注文が相次ぎ、ランチタイム終了の30分前となる午後1時半、スープが売り切れて、閉店です。

 田中さんは博多と東京のラーメン店で修業を積み、6年前にこの店を開きました。しかし実家は人気ラーメン店。継がなかった理由は…?

一陽軒店主・田中義之さん:
「(両親とは)決して仲が悪いわけではなく、すごく仲は良いんですけれども、仕事のことに関しては、お互い我が強かったりする部分もありまして」

 一方、ご両親に息子さんが店を継がなかったことについて聞くと…。

好陽軒店主・父親の茂さん:
「ああやってやり出したことに対しては大賛成で、ただ『大変だぞ』と。でも6年近くになりますけど、一回も疲れたとか、えらいとか、そういう愚痴は聞いたことない。2回食べに行ったんですけど、頑張っているなと。味うんぬんは、違うやり方でやった以上は下手に親が口出す話でもないし、よければ結果が息子に返ってくる。悪ければ息子に返ってくる。もういつでもこれで安心して引退できるなと、最高にありがたい話ですわね」

母親の・あや子さん:
「息子もどちらかというと頑固ですので、一人でやった方が。寂しいとかそういうのではなくて、いまでは大賛成です」

■夜の営業もランチと同じく行列…「一陽軒」のメンマ以外の人気の理由

 午後6時前、息子・義之さんの一陽軒。夜の開店を待って、外にはすでに行列に…。昼と同じように人が絶えません。実は、味以外にも、この店の人気を支える理由がありました。

男性客:
「最後に店主と、一緒にいる方が必ず『ありがとうございました』って気持ちよく掛け声出してくれるので、また来ようかなという感じになります」

一陽軒店主・田中義之さんら:
「(帰る客に対して…)どうもありがとうございました、またお越しください、お待ちしております」

 息の合った丁寧な挨拶。実はこれも、両親から受け継いだものです。

好陽軒店主・父親の茂さんと母親のあや子さん:
「(声をそろえて)どうもどうも、ありがとうございます、は~いどうも、どうも、ありがとうございました。またど~ぞ」

 ご両親のあいさつからは、年季を感じます。

■『秘伝のメンマ』でつながる親子2軒の人気ラーメン店 息子の一番は「父の味」

 一陽軒の午後8時半。閉店時間の9時を前に、スープがなくなり終了。

 コクがあるのに、あっさりとしていて上品な豚骨ラーメンに、両親から受け継いだ絶品メンマ。

 そして心を込めた接客。これを求めて、きょうも多くの人が足を運びます。最後に、田中さんに一番おいしいと思うラーメンを聞きました。

一陽軒店主・田中義之さん:
「父親の作るラーメンは、最高においしいものだと思っていますし、私が幼少の頃から食べているラーメンですので、1番おいしいラーメンは父親の作るラーメンだと思っています」

 店は継がずとも、『秘伝のメンマ』でつながる親子の人気ラーメン店です。