画像提供:岡崎学園 ダイヤモンド・プリンセス号の感染者で無症状の128人を受け入れた施設ではどんな対応をしていたのか 

 新型コロナウイルスの感染拡大で、目前に迫っている「医療の崩壊」。この医療崩壊を防ぐカギとなるのが、症状の軽い感染者を受け入れる「隔離施設」です。

 一早く感染者を受け入れた愛知県岡崎市の隔離施設と、感染者として施設に入所していた男性を取材。見えてきたのは隔離施設を一日も早く整備しなければならない日本の現状でした。


■医療崩壊を防ぐには…ダイヤモンド・プリンセス号の感染者128人を受け入れた施設の対策

 愛知県岡崎市の藤田医科大学岡崎医療センター。

 今年2月、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から感染者で症状が出ていない乗客ら128人を受け入れた開院前の病院です。

看護師:
「こちら正面玄関から入っていただいて、今はこういう風になっていますけれども、イスが何個か並んでいましたので荷物を取っていただいて、そちらで医師と看護師がペアになってトリアージをしていく形をとっていました」

 感染者だけでなく検査で陰性だった家族ら30人も受け入れましたが、施設内で感染が広がることはありませんでした。

看護師:
「こちらが陽性者の方が滞在していたフロアになります」

 入所者のケアをしていた、看護師の加藤さん。感染を防ぐため、厳しいルールが徹底されていたといいます。まず最初に行われたのは「滞在エリアを分ける“ゾーニング”」。

 感染者らが滞在していた当時に撮影された写真を見ると、エレベーターに赤や青の張り紙があります。

看護師:
「赤い表示で不潔エリア、青い表示で清潔エリア」

 色分けしたサインは、例えば看護師が防護服やマスク無しで乗れるエレベーターなのかそうでないのか、一目で分かるようにした工夫です。

看護師:
「私たちも開院前ですので、まだフロア内をしっかり覚えているわけではないので、そういう表示がしっかりとしてあったので『ここはダメだね』と戻ってくる形をとっていました」

 陰性の家族は4階に、感染者は5階と6階に、それぞれ分かれて入所しました。当然、入所者はフロアの行き来はできません。


■隔離施設での生活は…当時の状況を入所者が語る

 ただ、ウイルスに感染し、実際に施設に滞在した70代の男性に話を聞くと。

男性:
「通路ですね。青いビニールシートが敷いてある部分だけは歩いてもいいよということになっていました」


 意外にも、部屋からでて通路を自由に歩き回れたという施設内。

 看護師が待機しているスタッフステーションに置かれた新聞や飲み物なども自ら取りに行っていたといいます。

男性:
「病院では、部屋の中ではマスクしていない。看護師さんはしっかりしたマスクとゴーグルをかけていました。それで(防護)服を着ていましたよね」


 同じフロアに入っているのは、全員が感染者。感染させることがないため、マスクも強制されずに過ごすことができたといいます。

 一方で、看護師たちが最も気を付けていたことは…。

看護師:
「自分たちの体調管理もですし、あとはやっぱり他のスタッフと話をするときでも、換気をしながら話をしたりだとか」


 感染リスクを減らすため、直接入所者のケアに当たる看護師は14人に限定。さらに、看護師が使った防護服やマスクは、感染者のフロアから移動する度に交換していました。

看護師:
「お手洗いに行くにも(防護服を)全部脱いで、全部消毒をしてという形になりますので。必要以上に脱いだり着たりして無駄遣いしてもいけないなと思っていましたので大変でしたね」

 常に神経をとがらせなければいけない現場。この施設では、スタッフがしっかりと休みが取れるようにシフトを組んだほか、心のケアを行う専門医も配置して対応したといいます。

看護師:
「私たちが健康に保てたので、その分滞在者の方たちにも提供できた。自分たちが健康じゃなくなってしまうと多分滞在者の人たちにも影響が出ますし」


入所していた男性:
「看護師さんが朝夕見に来てくださって、検温と酸素(飽和度)を調べて体調を聞いてくださいましたね。不満はほとんどなかったですよね」



■「医療体制が切迫」…指摘された愛知の現状は

 万全の体制を整え、施設内での感染を起こさなかった岡崎医療センター。いま、こうした「隔離施設」をすぐにでも整備しなければならない状況に直面しています。

専門家会議 尾身茂副座長(4月1日):
「東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の5都府県は人口集中都市を有することから医療供給体制が切迫しており…」

 1日、政府の専門家会議が指摘した医療崩壊の危機。愛知県など5つの都府県に対し、対策を講じるよう強く求めました。名指しで指摘された愛知県の大村知事は…。

大村愛知県知事:
「医療提供体制は十分確保しておりますし、全県では十二分に対応できるわけでございます。これは数字が示しております」

 現在の入院患者およそ100人に対し、県内で確保している病床は250床あり、まだひっ迫していないと強調。しかし、その愛知県内の医療現場では強い危機感を募らせています。

名大病院山本医師:
「集中治療室の質については我々は自信を持っていますが、提供できる量、たくさんの患者さんを診るということを考えると、非常に心もとないところがある。戦々恐々としているというのが本音のところですね」

 名古屋大学医学部付属病院で救急・集中治療にあたる、山本医師。重症の患者を救うために不可欠な集中治療室は、通常時でも稼働率が7~8割と高く、都市部では慢性的に足りていないといいます。


■集中治療室が日本より充実するアメリカ、イタリアでも崩壊…日本の現場は“戦々恐々”

 さらに、日本の人口当たりの集中治療室の数は医療崩壊が起きたアメリカの5分の1、イタリアの半分しかありません。しかし、これらの国で起きているのが…。

ニューヨークの医師:
「たくさんの患者が誰にも看取られずに、独りで亡くなっていくのがとても悲しい」


 ニューヨークでは感染者を病院に収容しきれなくなり、治療も、亡くなった人の遺体も、屋外の仮設テントに。

 そして、死者がおよそ1万4千人に上っているイタリアでは、マスクや防護服なども足りず、医療従事者への感染が相次いでいます。

 日本より集中治療室が充実している国ですでに深刻化している医療崩壊…。

 山本医師は、医療崩壊を防ぐ鍵となるのが、軽症者などを受け入れる隔離施設だと話します。

名大病院山本医師:
「急激に(新型)コロナウイルスの患者さんが増えてしまうと、あっという間にコロナウイルス以外の患者さんにも大きなダメージが出る可能性があります。あまり症状がない方は医療機関では診ない。経過観察自体は宿泊所、今たくさん空いているという話もありますので、そうしたところをむしろ借り上げてやっていただくとかですね」


■入所者を支えた小学生からのメッセージ…求められる“隔離施設の整備”

 感染者として岡崎医療センターに滞在していた男性は…。

男性:
「これが岡崎小学校6年生の寄せ書き。『コロナウイルスに負けずにがんばってください』と」


 隔離されている生活のなかで、心の支えとなったのが地元の小学生からのメッセージでした。

男性:
「私たちにはコピーを病院がくれたんで、今でもちゃんと持っています。本当にうれしかったですね。藤田病院(岡崎医療センター)さんの決断というのは、あそこ(クルーズ船)にいた人はずいぶん助かったと思います」

 感染者の生活を守る、そして、医療崩壊を起こさないために。「隔離施設」の一日も早い整備が、いま求められています。