新型コロナウイルスへの感染を防ぐために、病院では入院患者への面会を制限するところが多くあります。家族も患者も直接語り、触れ合うことができないことでお互いが不安になります。

そんな不安を解消したいと三重県大台町の病院では、患者全員の様子を写真と手紙で家族に伝えました。手書きの文字から伝わる「気持ち」…。新たな絆が生まれています。

■新型コロナで面会規制…家族の不安を解消するために始めた病院の取組

 豊かな自然に囲まれた三重県多気郡大台町。町で唯一、病床を抱える「大台厚生病院」です。高齢化が進む地域の医療を支えています。

入院患者はおよそ100人、そのうちの9割が75歳以上の高齢者です。

戸川和司さん71歳。飛沫防止のシート越しに、入院中の93歳の母親・みえ子さんに話しかけます。

戸川の妻・保子さん:
「お母さん、こっちやよ。分かる?」

和司さん:
「こんな格好でしか会えんけどな、ごめんしてな」

大台厚生病院でも感染防止の観点から面会を禁止していましたが、緊急事態宣言が解除された5月25日から、週1回、10分ほどの面会ができるようになりました。

和司さん:
「目開けたな。(保子さん:開けたよ)もう意思疎通やな、心やな」

認知症を患う母…言葉は通じなくても、会えば息子の気持ちは伝わります。

和司さん:
「これ見てみ、心で見える?写真送ってくれたんやに、元気やって」


和司さんが見せたのは、病院のスタッフから届いた手紙。

面会禁止の期間中、この手紙だけが母親の様子を知る唯一の手段でした。

■患者1人1人の写真に手紙を添えて…家族も「手が震えて嬉しくて」

病院のある同じ大台町に住む和司さん。母親のみえ子さんが肺炎で去年12月に入院して以来、毎日病院に通い食事などの世話をしていました。

和司さん:
「(病院で母に食べさせると)うまいなーっていうことがぽろっと出たり、にしゃっと笑みを浮かべたりして、それを見るとまた明日行こうかなとなって」

しかし病院は2月28日から面会禁止に。3か月もの間、全く会えない状況になりました。

入院患者の大半が高齢者の大台厚生病院。感染すると重症化しやすい高齢者を守るためには、「面会禁止」の措置は止むを得ません。

しかしそれは、家族と患者の双方が大きな不安を感じることになります。不安を抱かせないために、家族と患者をいかにして繋ぐか。大台厚生病院は1つのアイディアを実行に移しました。

大台厚生病院の中井院長:
「職員の方と相談してどういう風な方法がいいか、精神的に不満を持ってみえる方にはどう対応したらいいかと、相談して決めました」


病院のスタッフが入院患者全員を撮影。手紙を添えて家族に送りました。

看護師:
「(写真を撮りながら)いい感じ、いい顔。送るでな、息子さんにな」

看護師の西村さん:
「お熱がある人やったらお熱がどうとか、脚が痛い人やったら脚の痛みはどうとか、一言ちょっと添えて、あとは心配事とかあればまた連絡くださいと添えて、お手紙を書かせていただきました」

<戸川さんの家族への手紙>
「戸川みえ子様のご家族様。ここ最近、毎日お昼にゼリーを一個完食されています。熱もなく元気に過ごされております」

和司さん:
「しまっては出してしまっては出して、メッセージを読ませていただきました。手が震えて嬉しくて、自然に涙が出てきて字が見えないくらいでした。コロナで忙しいところ、時間を割いてスタッフの人たちがしてくれたということに、本当に感謝しております」

病院から写真とともに届いた手紙。心のこもった一文字一文字が、家族と患者、そしてスタッフを繋ぎました。