名古屋駅から徒歩約10分のところにある銭湯「地蔵湯」は、明治時代に創業し、大正に今の場所に移転しました。浴場には「富士山の絵」「タイル地の浴槽」「ケロリンの桶」など昔ながらの銭湯の風景が広がっています。

 昭和レトロたっぷりの銭湯に通う人たちには様々な人間模様がありました。

■まるで昭和にタイムスリップ…名古屋駅近くの住宅街にあるレトロ感あふれる銭湯

 名古屋駅近くの住宅街の中にある、銭湯「地蔵湯」。5代目の松本靖子さん(66)と息子の政哉さん(42)の親子が経営しています。その名の通り、敷地の片隅にはお地蔵さまがいました。

 浴場には、お決まりの富士山、その横にはお地蔵さまが描かれています。浴槽はタイル地で、蛇口はお湯を示す赤のハンドル。湯を受けるのは定番のケロリンの黄色い桶です。まるで昭和にタイムスリップしたかのようです。

男性客:
「楽しいですよ。家の風呂では、なかなか家族3人で入ることできませんから」

女性客:
「あっちこっち出歩くのもできないから、お風呂入ってのんびりするのが一番いいなと」

 コロナ禍でも日常生活に欠かせない銭湯には休業要請が出ず、2020年もずっと営業を続けて来ました。しかし旅行客がいなくなったこともあり、以前に比べると2、3割客が減ったといいます。

■時代と共に変える所と変えない所…明治から100年以上守り続ける欄間や番台

 正午。ボイラーの電源を入れ、ろ過器で循環させながら、湯を沸かします。

6代目の政哉さん:
「これ(ボイラー)とろ過器が壊れると、お風呂屋さんはできません。500万円から600万円かかるから」

 銭湯の心臓部であるボイラーとろ過器。最近多い銭湯の廃業の理由には、後継者不足とこの機械の故障と水漏れが多いといいます。

 明治時代に、笹島の車両基地の隣で創業。大正14年にこの場所に移転しました。その時、一緒に引っ越したお地蔵さまにちなんで、「地蔵湯」と名付けました。

5代目の靖子さん:
「笹島から移転してくる時に持って来たものは、そこの欄間とこの中の仕切りと番台」

 店内は、レトロな物で溢れています。脱衣所のロッカーは、鉄の鍵で開けるタイプ。今ではもう見かけなくなったマッサージ機は1回20円。入口にある靴箱も懐かしいつくりです。

 午後2時。2時間かけて湯が沸きました。風呂の蓋を開けて開店の準備です。湯は井戸水を沸かしたものです。男湯には笹島時代の名残から、蒸気機関車が描かれています。

政哉さん:
「(シャワーは)だいたい固定式の方が多いんですけど。ここにあると洗いにくいかなと思って」

 もともと、シャワーは全て固定式でしたが、今年、使いやすいようにと半分を手持ち式に替えました。昔ながらのレトロな所は変えない、しかし、客の使い勝手には常に配慮しています。

■客同士で浸かり方の伝承も…「裸と裸の付き合いできる」顔なじみの常連が集う銭湯

 午後3時。開店すると、早速入浴を楽しむ常連さんが…。近所に住む20代の若い男性もやってきました。

近所に住む男性客(20代):
「先週とか週3ぐらいで来て。もともと温泉が好きで遠くへ行っていたけど、近くで調べて。めちゃめちゃ雰囲気良かったんで」


 最近頻繁に来るという男性は、シャンプーやボディーソープは、毎回お店から借りているといいます。銭湯といえば、シャンプーや石鹸は持参するか買うのが通常ですが、スーパー銭湯に慣れた若者向けに、無料で貸し出すようにしました。おかげで新たな常連も増えています。

別の男性客:
「僕が好きなのは水風呂です。ちょっと温まったところで、あっち(水風呂)に行くのがすごく好き」


 熱い湯からお気に入りの水風呂へ。常連の浸かり方を真似たそうです。

 地元の中学で同級生だったという2人も来ていました。

男性客(60代):
「お金出してどっか行かなくても、地元に残って会える。週に何回とか月に何回とか会ってしゃべれるからね」

 夢はここで同窓会を開くこと、と話します。

 午後5時半。元中日ドラゴンズの豊田誠佑さん(64)がやってきました。現在は中川区で居酒屋を営んでいます。

豊田さん:
「ここのいいところは、常連さんと裸と裸の付き合いができるというか、いろんな話ができる」


 春、コロナの影響で居酒屋を休業していた間、地蔵湯に毎日通い、今ではすっかり顔なじみに。きっかけは共通の知人を通して政哉さんと知り合い、お互いに行き来するようになったことです。

政哉さん:
「風呂屋さんをやってなかったら、多分一生会わない人とかいるから。あと『いいお湯だった』と言ってくれるのが、一番楽しい」


 地蔵湯には、もちろん女性客もやってきます。

女性客(28):
「いつもは友達と一緒に来ているんですけど、のんびりできるのでゆっくり話したりとかできるのが楽しみです」

■銭湯文化を若い子たちにも浸透を…6代目の理想は「知り合いになって楽しい空間に」

 レトロなマッサージ器を楽しむ常連がいました。

男性客(53):
「自分でハンドル動かして位置を。来たら5セット。1回20円なんで100円です」

 午後11時。決まってこの時間にやってくる常連がいました。

男性客(55):
「まずお湯がいいじゃないですか。あと地蔵湯さんって名前がいい。入るだけで、運気がアップしそうな感じ」


 夜遅くにやってくるのには、理由がありました。

同・男性客(55):
「こういう形で大の字になるんですよ。こんな感じできないじゃないですか、自宅じゃ」

 広い浴槽を1人占め。客が少ない閉店間際だからこその楽しみ方です。

 午後11時半、閉店。ここからは掃除の時間です。靖子さんは脱衣所の清掃と消毒を担当します。風呂場の掃除は政哉さんが担当。丁寧に手洗い。これを20年続けています。

政哉さん:
「もっとここにお風呂屋さんがあるのをわかってもらって、銭湯文化を若い子たちにも浸透させて。みんな来てここで知り合いになって、楽しい空間ができるのが僕の理想です」