一刻を争う救急搬送に1時間以上もかかり、運ばれる途中で心肺停止になるケースが、先週末に名古屋で相次ぎました。

 救急隊が病院に受け入れを4回以上求めるも受け入れ先が決まらず、出動先の現場に30分以上とどまらざるを得なくなった状況「搬送困難事案」です。

 1つ目の事案は22日に起きました。救急要請をしたのは名古屋市内在住の70代の女性で、家族が「意識障害」があると119番通報しました。

 現場に到着した救急隊が、通報から12分後に女性の受け入れ先となる病院を照会。しかし市内の8つの医療機関に「満床である」との理由で受け入れを断られました。

 このやり取りにかかった時間が実に36分間。ようやく名古屋市外の病院に受け入れが決まったのが通報から48分後、女性はその6分後、搬送中に心肺停止となり、病院に到着したのは通報から1時間以上たった69分後でした。

 もう1つの事案は24日です。

 体調不良を訴えた60代の男性。こちらは受け入れ先の病院を探すのに10の医療機関に問い合わせ、決まるまでに30分の時間がかかりました。

 女性と同様に搬送中に心肺停止となり、1時間以上たって病院に到着しました。救急要請した人が心肺停止となるような搬送困難事案は、記録が残る2011年以降初めてということです。

 症状の軽い人は1次のかかりつけ医などに行きますが、救急車が必要な症状の重い患者は2次、3次の大病院に運ばれます。

 しかし、こうした大病院は新型コロナの感染者を受け入れていて、病床もさることながら人手もそちらに割いています。そのためコロナ以外の患者を受け入れる余力が無くなっています。

 今回の搬送困難事案は、心肺停止となったということで発表されましたが、重度傷病者でない患者の搬送困難事案はこれまでも起きていました。

 月別の搬送困難事案の推移を見ると、新型コロナの第2波の頃、第3波に入ってからは増えているのがわかります。解消するためには、やはり新型コロナの新規感染者を減らすということになりますが、それにはまだ時間がかかります。

 そこでポイントとなるのが大病院の負担緩和。大病院に入院する新型コロナ患者の全員がそこに留まり続けなければならないような重い症状というわけではなく、症状が収まり回復期にある新型コロナの患者は軽症者施設や別の病院に移すなどして、大病院の余力を取り戻すという取り組みを進める必要があります。

 今は医師会などの医療団体がこうした取り組みを始めていますが、政治や行政がより深く関わっていくべきだと考えられます。

 医療の逼迫はずいぶん前から言われていたことです。新型コロナの感染が拡がり始めて1年。名古屋の河村市長はじめ自治体のトップから「病床確保に向け医療機関に協力を求めている」という声は聞かれましたが、地域で役割分担して医療を守ろうという構想は聞かれませんでした。

 対応が後手に回ったことで起きたと言わざるを得ない今回の事案。「次」が起きないように、政治行政には早急な動きが求められます。