分裂抗争が続いている「山口組」と「神戸山口組」は、2020年1月にその活動を強く制限される「特定抗争指定暴力団」に指定されましたが、その後も両者の抗争事件は止みません。

 現場を取材すると、元々同じ組織同士のため、他の組織が仲介に入れずに「終われない抗争」、そして“みかじめ料”など昔ながらのシノギができなくなった今、コロナ禍で生まれる「新たな資金源」など、変わる暴力団の現状が見えてきました。

■異例の愛知・瀬戸市開催…コロナ禍で「山口組」恒例の餅つきに異変

 2020年12月末、愛知県瀬戸市にある山口組傘下組織の事務所。山口組の2次団体の組長など、幹部らが集まる中、年末の恒例行事「餅つき」が行われていました。

 事務所には山口組の高山清司若頭(73)など、最高幹部も集結。約600キロもの餅がつかれたとみられていますが、今回の餅つきは例年とは様子が違いました。

 集まった記者たちに、幹部たちが口にしたのは「コロナの話題」。例年は、全国から最高幹部らが集結する餅つきですが、今回は感染を防ぐため集まったのはごく一部の幹部だけ。例年より小規模の開催となり、事務所の入口には消毒液が並んでいました。

 さらに今回の餅つき、例年と決定的に違う点は、開催場所です。以前まで開かれていた総本部を構える神戸市ではなく、直系の2次団体がある瀬戸市での開催でした。その背景にあるのは、「特定抗争指定暴力団」への指定です。

■終わるに終われない分裂抗争…「特定抗争指定暴力団」に指定も後を絶たない事件

 5年半前に、司忍こと篠田建市組長が率いる山口組と、神戸山口組に分裂した山口組。その後、双方の組員による抗争事件が何度も繰り返されました。そして2020年1月、愛知県公安委員会などが、山口組と神戸山口組を暴力団の活動に強い制約を課すことができる特定抗争指定暴力団に指定。

 決められた警戒区域内で組員が5人以上で集まったり、組事務所を使ったりすることなどが禁止され、違反すれば逮捕されます。

 東海地方では、名古屋市と岐阜市、三重県桑名市などが警戒区域に指定され、現在、全国で19の市や町にその警戒区域は広がっています。今回の餅つきは特定抗争指定により、組員が神戸や名古屋で集まれない山口組の現状を象徴したものでした。

 活動が厳しく制限される山口組。しかし、その制限下にあっても抗争事件は後を絶ちませんでした。2020年11月には、兵庫県尼崎市で神戸山口組系の組長ら2人が、拳銃で撃たれ重傷を負う事件が発生。実行犯として、山口組系の組員2人が警察に出頭。2人は、名古屋に本部を置く山口組「司興業」の幹部と、その傘下組織の幹部で、殺人未遂の疑いで逮捕・起訴されました。

 さらにその翌月の2020年12月に、岡山県倉敷市の神戸山口組傘下組織への発砲事件が発生。岐阜市に本部を置く山口組弘道会傘下の組員2人が実行犯として逮捕されるなど、東海地方の暴力団組員が相次いで抗争事件で逮捕されています。

 特定抗争指定で活動が厳しく制限される中で、なぜ抗争は終わらないのか。暴力団に詳しいジャーナリストの鈴木智彦さんは、「普通は他の組織が仲裁に入り手打ちとなるが、その組織がないため、抗争が終わりにくい」と指摘します。

ジャーナリストの鈴木智彦さん:
「今回はもともと同紋同士が割れて跡目でモメている。どこの組織も間に入れなくて、いくとこまでいくしかない。とはいえ、これ以上やっていてもお互いが疲弊するだけだとなれば、どこかで折衷案を出すんだろう」


 「終わるに終われない」分裂抗争が、組織の弱体化につながっているとみられています。

■きっかけは暴力団対策法…「みかじめ料」など昔ながらのシノギが困難に

 暴力団を取り巻く環境の変化は、“シノギ”と呼ばれる資金源にも及んでいました。名古屋市中区の繁華街「錦三」。風俗店や飲食店が密集する繁華街は、店から用心棒代を得るなど、シノギと呼ばれる暴力団の資金源となっていましたが…。

ラウンジの経営者:
「オープンして結構経ちますけど、一度も入ってきたことないです」

バーの経営者:
「そういった方たち(暴力団)をお見かけする機会は、ほぼないというか圧倒的に少ないと思いますよ」

 このバーの経営者は、錦三で何十年も前から商売をしている人から、暴力団からの『しめ縄や飾りの購入の強制』を聞いたことがあるが、今はそのような話はほとんど無いと話します。

 「最近は、暴力団を見なくなった」という錦三。飲食店でみかじめ料を無理やり要求するといった、私たちがイメージする暴力団の姿は、今ではほとんど見られないようです。

 その背景にあるのは、1992年に施行された暴力団対策法。活動が厳しく取り締まられるようになり、みかじめ料など、昔ながらの資金源は 少なくなっているといいます。

ジャーナリストの鈴木さん:
「(今は)暴力団であることを表に出すと経済活動ができない、本当に難しい」

 鈴木さんは「昔は、風俗など繁華街からみかじめ料を得たり、博打で稼いだりできたが、警察に1つ1つ潰され、今では『暴力団の看板』を使わないで商売をせざるを得なくなった」と話します。こうした現状がある中、暴力団が新たな資金源として、別の犯罪に手を染めるケースが相次いでいます。

■コロナ貸付金を詐取…困窮した末端の組員が手を染める“新たなシノギ”

 2021年1月、愛知県警に逮捕された山口組傘下組織の組員ら4人。新型コロナで収入が減った人たちへの貸付金を騙し取った詐欺の疑いでした。さらに高齢者に嘘の電話をかけ、現金を騙し取る特殊詐欺や、覚せい剤や大麻などの薬物事件でも、相次いで暴力団組員が逮捕されています。

(山口組の事務所に掲げられた看板)
「弘道会も麻薬類の根絶と撲滅を強力に推進する」


 山口組では、組の事務所に麻薬を非難する看板を掲げるなど、薬物犯罪や弱い立場の人から金を騙し取るシノギは本来、「御法度」。しかし締め付けが厳しくなったことで、末端の組員がこうした犯罪に手を染めているのが現状でした。

 「若い組員を資金源としている親分たちは、彼らが何で儲けているかは感知せず、どんな形であれ、自分達に稼ぎを上納すれば構わないと思っている」とジャーナリストの鈴木さんは言います。

ジャーナリストの鈴木さん:
「ドラッグ、売春、闇金融。違法であるが、需要があるもの。ヤクザ的なシノギは壊滅しないし、無くならない。(暴力団にとっては)純然たる暴力団の価値がある」