小さな頃より父と共に、レスリングで世界最強を目指してきた、三重県の高校3年生の藤波朱理さんは、初出場した2020年の全日本選手権で優勝。一躍2024年のパリオリンピックの代表候補に名乗りを上げました。

 朱理さんは、オリンピックを3連覇した憧れの吉田沙保里さんを目標に、2024年に向け練習に励んでいます。

■レスリング界に現れた新星…“完全優勝”でパリ五輪代表候補に名乗り

 三重県のいなべ総合学園レスリング部3年の藤波朱理さんは、2020年の「天皇杯 全日本選手権」の準々決勝で、世界選手権2連覇の至学館大・奥野春菜選手を圧倒。

 決勝では、2019年世界選手権銀メダリストの入江ななみ選手を破り、格上相手に1ポイントも奪われることなく完全優勝。一躍2024年のパリオリンピックの代表候補に名乗りを上げました。

■「技も力も優れた男子相手で強くなれると思った」…男子と一緒にトレーニング

 朱理さんが所属する、いなべ総合学園のレスリング部。11年連続でインターハイに出場するレスリングの名門です。部員は男子12人、女子4人。藤波選手は、男子と一緒に筋力トレーニングをこなします。

 マット上でも、相手にするのは自分よりパワーのある男子部員。男子とレスリングできる環境はすごく魅了的と話す藤波選手は、「技も力も優れた男子と練習を続けていけば、強くなれると思った」と話します。

■一瞬にして相手に入り込む「片足タックル」…理想形はロンドン五輪の吉田沙保里さん

 朱理さんの武器は、一瞬にして相手の足に入り込む「片足タックル」です。右足を踏み込んで相手の片足を掴むまでの時間は「0.36秒」。

「速さ」以外にも、タックルを仕掛ける「タイミング」も大きな武器。いなべ総合学園レスリング部の監督で、朱理さんの父・俊一さんは、「タックルのタイミングは練習で身につけるのは難しく、生まれ持った才能」と話します。

 相手選手との駆け引きの中で、最も大切なタックルの「速さ」と「タイミング」を兼ね備えた朱理さん。そんな彼女が、理想のタックルと話すのが、2012年のロンドンオリンピックの決勝で、両者0ポイントと均衡した場面で、吉田沙保里さんが見せたタックルです。

朱理さん:
「緊迫した状況で、踏み込んだタックルは、リスクもあるし簡単にはいかない。勇気をもって入り込む姿が印象に残っています」


 その吉田さんの姿を見てから朱理さんが意識しているのは、「攻めは最大の防御」。

「守りに入らず最後まで攻め続けるのを意識している」と話します。

■父の影響で4歳から始めたレスリング…「沙保里さんがしていた父親の肩車をパリ五輪で」

 朱理さんと世界最強への道を共に歩んできたのが、レスリング部の監督であり、父である藤波俊一さんです。朱理さんは、レスリングの指導者だった父の影響で、4歳からレスリングを始めました。

 レスリングを始めた頃は、試合に出ても勝てず涙することも多かった朱理さん。それでも俊一さんは怒らず、いつもやりたい道を選ばせてくれました。

朱理さん:
「『やりたかったらやれ、やらないと負けるぞ』と、のびのびとさせてくれている感じです」

 遊び半分で始めたレスリングも、負けず嫌いの性格から、次第に自ら父に教えを乞うようになっていました。朱理さんは、「父がいなければ今どうしているのか…。父は心強い存在」と話します。

父・俊一さん:
「トップを目指してほしいですし、他の選手から尊敬される、憧れる選手になってほしい」

 固く強く結ばれた師弟の、親子の絆。

 朱理さんの部屋には、小学生の頃に書いたドリームマップが掲げられています。そこに書かれているのは『レスリングでオリンピックに出場し優勝する。そして歴史に名を残す』。

 朱理さんは「2024年のパリ五輪で優勝し、吉田沙保里さんが父親としていた肩車を、自分も是非やりたい」と夢を語ります。