フランス発祥のパルクールをご存じだろうか。その場所にあるモノを利用して走ったり、跳んだり、登ったりして移動するアクロバティックな運動だ。

 日本チャンピオンの経験もあるアスリートが、愛知県長久手市の倉庫に専用施設を作り、パルクールを広めようとしている。(※動画の前半は1.2倍速です)

 名古屋市営地下鉄・東山線の終点「藤が丘駅」の程近くにある倉庫。

 室内には木材で作られた、まだ肌がむき出しのままの公園の遊具の様なものが並ぶ。

 長久手市に12月にできた「MAX ATTACK(マックスアタック)」、フランス発祥の運動「パルクール」の専用施設だ。作ったのは名古屋出身の木本登史さん、26歳。

 2018年「ジャンプジャパン」のスピード部門で優勝し、アジア大会でも6位に。19年に行われた世界大会「FISE W杯」では、7位にも輝いた日本を代表するパルクールアスリートの1人だ。

 パルクールとはフランスの軍隊トレーニングが発祥で、その場所にあるモノを利用して走ったり、跳んだり、登ったりして移動するアクロバティックな運動。

 動画で目にすると一見、かなり危険そうに見えるが、「実際には1回1回確認してどんな失敗があるかや、人がこないかなどを全部確かめてやるので、むしろ危険が回避できるような動きが身に付く」と木本さんは話す。


 17歳、高校2年の時に同級生に誘われてパルクールを知った木本さん。誘われた場所は、今は整備された公園になっている名古屋市中心部の「久屋大通公園」だった。

 まだそれが「パルクール」だということも知らなかったが、公園にある障害物を利用した体験は達成感がいっぱいだった。

 街中には登ったり、跳び越えたりするパルクールの世界が無限にあった。まるでゲームのステージをクリアしていくような感覚が、木本さんをその魅力に引き込んでいった。

「達成感」を求めて街中や柔道場などで練習を繰り返していた木本さんに、大学1年のとき転機が訪れる。日本を代表する人気アーティストのドームツアーにパフォーマーとして参加しないかという依頼だ。

 何もわからなかったが2つ返事でOKし、教えてくれる人はいなかったので参考になる動きはYouTubeなどで探した。

 大型エンターテインメントへの参加は、それまでの木本さんのパルクールで得られたものとは違う経験に。「人に見せるということでどうしたら楽しんもらえるか、かっこよく映るかを考えるようになった」と当時のことを振り返る。

 誰かのためにパルクールを練習するというのは初めてだった。

 その後は、屋外でスクールなどを無償で開いたりして活動を続けていたが、大学4年生の時に「もっとパルクールをしっかり学ぼう」と文科省のプロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」を活用して約4か月の間、デンマークへ。

 留学したのはデンマークの体育の専門学校。体操やダンス、軍隊を目指す学科もあった。パルクールは「スポーツ」の要素だけではなく、「自分と向き合って高めるもの」という思想もあり、教育の分野でも取り入れられているという。

 デンマークでは街中にパルクールの施設があり、そこでの出会いが、日本で専用施設を作るきっかけになった。

 それは街中にある施設に、70歳くらいの男性と子供が一緒にパルクールをしている姿だった。木本さん自身も彼らと一緒に遊び、「年齢や性別、能力に関係なく誰でも楽しめる場所を作りたい」という思いが芽生えた。

 木本さんの目標を決めたのはこの国で吸った「自由で競争のない空気」だ。

 2018年からは倉庫やレンタルスタジオを探して、一宮市で教室を始め、今は名古屋市内や岐阜市内など、6か所でパルクールスクールを開催。最年長は「79歳の教え子」もいたという。

 580万円必要な資金のうち、250万円を目標にクラウドファンディング「キャンプファイヤー」で、10月21日から11月29日までの間で募集したが、約440万円の支援があった。

 ほかにもイベントで出会った人や、発信したSNSに反応した人が現地を訪れて施設の建設を手伝ってくれたり、木材などを運搬するために車を1台貸してくれている自動車関連の企業などからサポートを受け、完成。

「老若男女問わず一緒に楽しめるように」と作った「MAX ATTACK」だが、木本さんは「今はプレーヤーとしてワクワクする。ここに遊びに来た人がどんな動きをするんだろうって」とアスリート目線で、オープンの日を心待ちにしている。

MAX ATTACK」は、すでに12月20日にクラウドファンディング支援者にむけてプレオープンしていて、補修や最終調整をして1月24日に正式オープンする。