環境や経済、貧困や差別など様々な問題を、2030年までに達成しようという取り組みSDGs。その目標の1つに「つくる責任、つかう責任」があります。

 使い古した消防服やタイヤのチューブなどの廃材から、バッグを作っているブランドが名古屋市にあります。このブランドが作る、丈夫で洗練されたデザインのバッグには、未来へのヒントがありました。

■モードとエコから社名を…生まれたきっかけは「大量廃棄」の社会を変えたいという思い

 使い古された消防服や、ソファーに使われていたカウチレザー、そしてタイヤのチューブなどの廃材から作られた個性豊かなバッグ。

 これらを作ったのは、「MODECO」の社長で、名古屋出身のデザイナー水野浩行さん(36)です。ロックミュージシャンになるのが夢だった水野さんは、11年前に「MODECO」をスタート。「大量に作り、大量に消費し、大量に捨てる」。そんな社会を変えたいと思ったのがきっかけでした。

水野さん:
「(モデコは)“モード”と“エコ”の造語なんです。エコロジーとモード、時代へっていう気持ちを込めて」


 モードとエコを合わせて、社会を変える。その取り組みは、大企業も注目。「レクサス」の顧客向けのカタログでも紹介されました。

■1週間で1トン出る廃材をリサイクル…フローリング材で作られた丈夫なバッグ

 水野さんが代表作というのが、完成まで6年かかった木目のデザインが特徴的のバッグ「Piccolo」(3万800円)です。バッグに使われている素材は、塩化ビニールのフローリング材。素材を提供しているのは、インテリアの専門商社「サンゲツ」です。

 名古屋に本社がある「サンゲツ」では、大量の床材や壁紙を扱っていますが、オーダーメイドで素材をカットするため捨てる部分がたくさんあり、1日300枚、1週間で1トン分の廃材が出ます。

 中でも住宅用のフローリング材の塩化ビニールは、単一素材であればリサイクル可能ですが、伸び縮みを抑えるために、裏に繊維をかませていて、そのままではリサイクルできません。

 住宅用のフローリング材は、丈夫で傷がつきにくいのが特徴で、防水性も高く、バッグの素材には最適。水野さんは、柄や耐久性でいえば一級品のこの廃材を使えば、素晴らしいバッグができると考えました。

■目指すは長く愛されるブランド「エルメス」…100年後も飽きずに使えるデザインを

 モデコのバッグは、熟練の職人が手作業で作っています。新作の素材はタイヤのチューブ。どの素材も、縫いあわせるには熟練の腕が必要といいます。かばん職人の男性は、「縫い合わせるのが難しい所が面白く、やりがいがある」と話します。

 水野さんが目指すのは、廃材でも100年後も飽きずに使えるデザイン。

水野さん:
「ケリーバッグとか持ち手のステータスシンボルになったりとか。廃材でそういうものが作れるかが、チャレンジでしょうね」

 目指すは、エルメスのような長く愛されるブランドです。

■年間300万台出る廃車からリサイクル…エアバッグ生地で「防護服」や「エコバッグ」

 愛知県半田市の「テラダパーツ」では、月に2000台の車を解体しています。解体した車から使える部品やパーツを取り出してリサイクル。海外向けに輸出もしています。

 中でも注目したのが、自動車のエアバッグです。未使用のエアバッグは、使い道がなく、これまで捨てるしかありませんでした。しかし、丈夫で密閉性が高く、バッグの素材としては最適です。

 テラダパーツの社長は、「国内で年間300万台出る廃車から、1つでも多くの部品が素材や商品に生まれ変わり、社会の役にたてば嬉しい」と話します。

 この日、水野さんは、愛知県清須市にあるエアバッグのトップメーカー「豊田合成」を訪れました。エアバッグの素材は、ナイロンをシリコンでコーティングした特殊な生地。しかし規格に合わない不良品が出ます。

 水野さんは、見せてもらった不良品のどこがダメなのか、肉眼では判断がつきませんでした。実は、生地には目に見えない穴が空いていたのです。

 豊田合成では、穴以外にも均一にコーティングされていないなど、どうしても出てしまう不良品を、再利用できないか検討を重ねてきました。そしてこれまでにエアバッグ生地で、コロナ対策用の「防護服」や「エコバッグ」を作ってきました。さらに活用の幅を広げようと今、水野さんと試行錯誤を重ねています。

 豊田合成の担当者は、「捨てるものがゼロになるのが一番。この世界の流れに乗じ、この活動をもっと進めていきたい」と話します。

■企業間をつなげミライを変える力に…ショッピングモールと組みエコバッグ配布

 名古屋市西区のショッピングモール「モゾワンダーシティ」の真ん中に展示されているのは、水野さんが手がけたエコバッグです。

 水野さんは、ショッピングモールとタッグを組んで、様々な取り組みを進めています。去年はトヨタグループとコラボして、モールの客にエコバッグを配りました。

 水野さんは、企業と企業をつなげ、ミライを変える力にしたいと考えています。

 捨てられて、ゴミになった廃材に魔法をかけると、ステキなカタチに生まれ変わります。水野さんは、「規制とか窮屈な社会ではなく、これからはみんなが、心の底からかっこいいな、素敵だと思えるようなクリエイティビティ―がすごく大切になる」と未来を描きます。