岐阜県関市の縫製加工会社を営む40代の夫婦が作る、カラフルな「保冷バッグ」が話題です。オシャレなデザインとプロ並みに高い機能性を兼ね備えたその新しい保冷バッグは、売り切れ続出となるほどの人気です。
■製造追いつかず続く嬉しい悲鳴…2年前から作り始めた保冷バッグがヒット

岐阜県関市武芸川町の、田んぼが広がるのどかな場所にある「北瀬縫製」。十数人のスタッフで、主に他社からの請負で、車の工具袋や救急袋などの特殊縫製を手掛けます。

今話題の保冷バッグ「KURUMI」(4400円)は、2年前から作り始めました。主にオンラインショップで販売していますが、売り切れが続く人気商品です。考案したのは、今年社長に就任した鈴木誠さんと、妻で前社長の娘の恵さんです。

恵さん:
「素直にうれしいですけど、ちょっと困ったなという…。対応できるだけの体制がまだ整ってなかった」
誠さん:
「デザイン的にはすごく自信があったので、『当然の結果かな』というのがあったにせよ、やっぱり本業があるので…」

ヒットに喜びつつも、従来の仕事を抱えながらの作業で製造が追いつかず、嬉しい悲鳴は続きます。
■既存の保冷バッグの概念覆す…3層構造で高めた耐久性と保冷性

そもそもの発想は、恵さんでした。
恵さん:
「保冷バッグって、ギラギラしたヤツが主流で、しかも(生地が)薄い。『耐久性あるのかな』、『効果ってあるのかな』っていうのが気になって」
1人の主婦として、既存の保冷バッグに物足りなさを感じていました。保冷バッグは理論上、分厚くすればするほど機能性が上がるものの、従来のほとんどのものは1層構造で、機能的でなかったといいます。

そこでまずは素材にこだわり、トートバッグにも使われる厚手の布“帆布”を用いました。それに断熱材と撥水コーティングした布で3層構造にし、気になる耐久性と保冷性を高めました。

もともと業務用の保冷バッグも手掛けていたため、そのノウハウを活かしました。誠さんは、「見た目は可愛いのに、機能性はプロ仕様なのが最大のこだわり」と自信をみせます。

持ち手の長さも試行錯誤しました。当初は普通に手で下げることを想定し、短めの持ち手でした。ところが、商談会の際に東急ハンズの担当者から「腕をくの字に曲げ、バッグを肘にかけて持つ女性が多い」との助言をもらい、女性が使いやすい長さに修正。

口には、面ファスナーとボタンを使い、持ち手を左右に軽く引っ張るだけで簡単に開けられるように。大きさは、お弁当を入れるのに丁度よいサイズにしました。
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■Uターンし会社を相続…父が手掛けていた保冷バッグを改良しヒットへ

話題のバッグを作る鈴木夫妻ですが、かばん作りに関しては素人でした。もともとは横浜に住んでいて、誠さんはコピー機のメンテナンス業を、恵さんは3人の娘を世話する専業主婦でした。

2人は、8年前に恵さんの父の会社を継ぐためにUターン。すると他社から依頼を受け製造していた一般向けの保冷バッグを見て、恵さんは…。
恵さん:
「『もうちょっと持ち手の幅広い方が、見た目がいいんじゃない』って何気なく言ったのが、一番最初だったと思う…」

その声に父・澄男さんは、「我々にはわからない、若い世代の感覚でどんどんやってくれ」と2人の背中を押しました。父の賛同を得た2人が試行錯誤して作り上げたものが、一気に注目を集めました。

鈴木夫妻はこれまで通り、他社からの請負業務もこなしつつ、保冷バッグのような自社製品の割合も増やしていきたいと考えています。
■コロナ禍で子供たちが笑顔になれる場所を…駄菓子店もオープン

そんな2人は忙しい合間を縫って、もう1つ力を注いでいることがあります。3月に事務所の一部を改装してオープンした、駄菓子店「ヨウキ」です。

恵さん:
「コロナ禍で、なかなか子供たちが遊べる場所とか、給食は黙って食べましょうとか、休み時間もお友達と話さないようにしましょうとか、そういうのがすごく寂しいなと思って」

恵さんは子供たちが笑顔になれる場所を作りたいと、何年も前から考えていた構想を実現させました。儲けはほとんどありませんが、地元の子どもたちの笑顔が見たくて、毎日店を開けています。

「今、家族と充実した時間を過ごせているから、それだけで十分」と話す恵さん。大ヒットの保冷バッグ作りに会社の運営、駄菓子店の営業と大忙しですが、毎日が充実しています。
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