14 佐野和真さん(押川陸雄役)

――僕自身は屈折してませんので(笑)

佐野和真

 昨年、この枠で放送された「インディゴの夜」にゲストで出演させていただき、クランクアップのとき、この作品も手掛けている服部プロデューサーが、「またぜひ一緒にやりましょう」とおっしゃってくれたんです。それがこんなにも早く実現するとは思いませんでしたが、「かげりのある役が佐野には似合うと思って」と言っていただいたので、絶対その言葉に応えたいと思ったんです。ただ服部プロデューサーには「佐野の屈折した感じを大切にね(笑)」とも言われたんです。そこは違うと思っているので、「僕は屈折なんてしてませんから!」と言わせていただきました(笑)。

 陸雄を演じるにあたり、僕が一番大切にしたのは目の動きです。どこか自分に自信が持てなくて、少しオドオドした感じを出したくて。とは言え、今回はセリフが長い上独特でした。そこに感情を乗せつつ、陸雄としての表情を作りながら話すことがこんなに難しい作業なんだ、と改めて感じています。もしかしたら、これまでの作品で一番苦戦したかもしれません。とにかく台本が素晴らしいし、一人ひとりの人物もちゃんと立っています。だから「さくら心中」の持つ“空気”を壊したくなかったんです。僕が陸雄を演じたことで、脚本を書かれた中島(丈博)先生に、「これは陸雄じゃないよ」と思われないようにしよう、と常に意識していました。

 例えばこれまでの作品だと、セリフを自己流にアレンジしても大丈夫なこともありました。でも「さくら心中」ではそれをしてはだめなんですね。セリフとして美しく、完成度も高いし、この作品でしか使わないような言い回しもたくさん出てくるから、ちょっとでも手を加えてしまうと途端に意味が変わってしまいます。陸雄はよくしゃべる男なので、正直セリフが多いと思ったこともあります。でもそう思ってしまった時点で“負け”なので、セリフが多いことは考えないようにしていました。昼ドラってセットで話が展開することが多く、どうしても心理や状況を説明するセリフが多くなってしまうんですけど、それを難度の高いセリフでやるのは挑戦でした。でもそれが昼ドラならではの醍醐味だし、撮影が進むにつれ、楽しくなってきましたね(笑)。

――高いテンションを保ちつつ演じる難しさ

 中島先生の作品には初めて出演させていただきましたが、やっぱり独特ですね。そのドロドロ感が(笑)。人間の一番黒い部分、嫌な部分をとことん強調して描き、観る人が何かを考えずにいられなくなるのはすごいと思いました。「さくら心中」も多くの方に支持されているとうかがいましたが、そういう面に人は惹きつけられるんじゃないでしょうか。

 自分で演じていうのもなんですけど、陸雄って少し変わってますよね(笑)。一つのことに固執してしまうし、嫉妬深いし。さくらに対する思いや文学に対する情熱は、もし身近に陸雄みたいなヤツがいたら、「大丈夫か?」と思うかもしれないです。テンションもずっと高くて、テンションを上げるのをずっとキープしながら芝居をするのも初めての挑戦でした。自分でもどこまで出来るんだろう、と思ったんですけど、自分の中にない引き出しを無理やり開けて演じた感じですね。役者として楽しいといえば楽しいんですけど、さくらと結婚するまで陸雄って幸せな場面がほとんどなかったんですよ。嫉妬心や怒りが心に渦巻いていたから、常に“負の意識”を持ちながら演技をするのが苦しかった。そんな生き方しか出来なかった陸雄は可哀想なヤツですね。

――3人の誰かの視点で

 陸雄と健の関係もおもしろいですよね。何だかんだいって、陸雄にとって健は唯一の友人だから、ぶつかることもあるけれど、小説の相談も普通にするし、また健から何か相談されるし。きっと無防備なくらい心を開いているんだと思います。さくらのことも一女性として愛しているけれど、彼女に対しては強くは出られなくて。いつもなだめたり優しい口調だったり。健に対しては遠慮がないから、お互い刺激を受けつつ、ともに成長出来るかけがえのない存在なんでしょうね。それをただ“仲の良い親友です”とは描かず、うまい具合に対立しつつ、でも根底にはお互いへの信頼とか絆とかを感じさせるような展開も、やっぱりすごいなと思いました。

 いよいよラストに近づいてきましたが、さくらと陸雄と健の関係がどうなるのか、最後の最後までいろいろなことが起きます。この3人の誰かの視点に立ってドラマを観るとより楽しめると思います。とは言え、陸雄は作家を目指しているのに、頭が固いし、視野も狭いですし、まだまだ半人前なので「共感してください」とは言いづらいですけど(笑)。

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